2025年07月28日
【Weekly No.494】日米、相互関税・自動車15%で合意
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- 【日米、相互関税・自動車15%で合意】
- 【日銀の利上げの障害が取り除かれた】
- 【対日自動車関税15%への米商務高官の説明】
- 【トランプ米大統領、パウエルFRB議長の解任は不要と発言】
- 【ECB(欧州中央銀行)、8会合ぶり利下げ見送り】
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Weekly 7月28日
【日米、相互関税・自動車15%で合意】
7月22日、トランプ大統領は、日本との貿易交渉で大規模な合意を締結したと明らかにした。日本に対する相互関税は15%になると表明。また、日米両政府は、自動車の税率を15%へ引き下げることで合意した。
貿易協定を受けた円ドル相場の反応は、ドル安円高だったが、おおむね安定している。日本にとって関税を巡る不確実性は解消されたが、ドル/円の今後に関して円にとって2つのリスクに注目する。石破茂首相が続投する場合の政治的リスクと、日本の財政状況次第で信用格付けに何らかの変更が生じるリスクだ。
日本の政府支出と借り入れ増加に対する懸念も引き続き円の下落圧力になっている。一方、株価は、貿易交渉の打開への期待は低かったため、トランプ大統領の発表はポジティブサプライズとなり、日本株に短期的な安心材料を提供した。関税率がこれまで示されていた25%か15%に引き下げられたことは意義深く、今のところ、5500億ドル(80兆円)の対外直接投資(FDI)はさほど材料視されていない。
この点が気になるのだが、「日本が米国に5500億ドルを投資し、利益の90%を米国が受け取る」という部分だ。日本の成長率下押しにつながる可能性はないのか、単純に相互関税が25%から15%に引き下げられて良かったということでいいのか、今後詳細を確認する必要があると思う。
23日の株価はひとまず市場にポジティブな反応が見込まれ、ショートカバー(買い戻し)が先行している。自動車株なども、これまで空売りがあったことも踏まえると、ひとまず買い戻しが優位になった。
ただ、買い戻し以上に上値を買っていいかはまだ判断できないが、新たな買いポジションを構築するには、15%の関税の影響を精査する必要がある。関税15%の発表後の2日間で日経平均は5%強上げた。前述した様に買い戻しによるものだろうが、この流れの持続性には?を感じていた。特にトヨタ自動車は2008年以来の大幅高となったが、こうした市場の反応は「一過性の動き」と見ている。関税の悪影響が米経済に及ぶのはこれからだからだ。米経済成長率が今年前半の2%から後半は1%へ鈍化すると予想。エコノミストの予想平均も第2四半期の2.1%成長から、第3四半期に0.8%、第4四半期に1.2%と減速する見通しとなっている。トヨタなど輸出企業の今年の下期以降の業績には慎重にならざる得ない。
【日銀の利上げの障害が取り除かれた】
また、日銀の政策判断への制約が、日米関税交渉の観点からは緩和する可能性があり、利上げへの市場の観測が高まってくるだろう。
日本国債市場では主に2つのルートから売り(金利は上昇)圧力となると考えられる。
1つ目は、関税を巡る不確実性を理由にいったん慎重化していた日銀による利上げの思惑が高まることだ。関税を巡る不確実性が低下したとなれば、政策金利の影響を受けやすい中期債利回りに上昇圧力がかかるだろう。
2つ目は、石破首相の退陣が意識されることで財政懸念から超長期金利に上昇圧力がかかるというルートだ。今回のトランプ大統領の発表で関税の成否がみえた、となれば石破首相が退陣する可能性があり、財政拡張懸念から超長期国債の売り材料となる。今のところ、「株高、債券安」というのが市場の反応だ。
日銀の植田和男総裁はかつて10%超の関税を想定していると発言していたので、15%なら日銀が想定する範囲内とみられ、31日に発表される「7月の展望リポート」では経済・物価見通しに大きな影響はないだろう。ただ、日本にとっての「霧」は少し晴れたが、ユーロ圏など他の国や地域はまだ交渉が続いている。日銀は不確実性が「極めて高い」としてきた。今回の合意で「極めて」は取ってもいいと思うが、不確実性はまだ残っている。
利上げ時期を巡っては、関税がどういう税率で着地するかという点とその後に経済・物価・賃上げ機運にどう影響するかの2つの不確実性があった。今回関税率は決着したが、実際にどういった影響があるかは8月以降に発表される4-6月期の実質GDP(国内総生産)や法人企業統計などを見ていく必要がある。4-6月の特に企業収益がそれほど悪くなければ、日銀は10月に利上げに踏み切る可能性もあるのではないか。
【対日自動車関税15%への米商務高官の説明】
ラトニック米商務長官はテレビのインタビューで、日本への自動車関税が15%に下がったことに米自動車業界から批判が出ていることに対して、「ばかげている」と一蹴した。
対日通商合意を受けて、米自動車政策評議会のラント会長は「米国製品の使用割合が非常に高い北米生産車よりも、米国製品がほぼ使われていない日本車に対して低い関税を課すような合意は、米国産業および米国の自動車労働者にとって不利益なものだ」と述べ、不満を示していた。この発言に対して、ラトニック氏は「競合他社の関税が25%から15%に軽減され、多少失望しているのかもしれないが、米国内で製造すれば関税は課されない」と指摘した。
一方、合意に盛り込まれた5500億ドル(約80兆円)規模の対米投資の枠組みについては、トヨタ自動車が米国内に工場を建設するといった通常の投資とは異なるとラトニック氏は説明。トランプ大統領の裁量で選定したプロジェクトに日本が5500億ドルを投じるとした上で、現在詳細の詰めや文書化の作業が進められていると述べた。
一例として、150億ドルを投じてジェネリック(後発医薬品)の抗生物質を製造する工場を建設するとしたら、日本が資金を拠出し、米国には支払いが発生しないと指摘。利益に関しては9割が米国に残り、1割は日本の資金回収に充てられると述べた。その上で「この9対1の分配以外に一切支払い義務はない」とした。
【トランプ米大統領、パウエルFRB議長の解任は不要と発言】
トランプ大統領は24日、ワシントンのFRB(連邦準備制度理事会)本部改修工事の現場を視察した際、パウエルFRB議長と金利水準について話し合ったと述べた。パウエル議長の解任は不要だとも語った。トランプ氏はパウエル議長が金利について正しいことを行うと認識していると話した。米金融当局は29、30両日にFOMC(連邦公開市場委員会)の定例会合を開く予定だ。
トランプ氏は、FRBが今年に入り政策金利を据え置いていることを繰り返し批判。また、同氏と側近らは、FRB本部の改修工事費用が当初予算から大きく膨らんでいる点を攻撃の材料としていた。この日、現場視察中のパウエル議長とのやり取りについて、費用超過に関する口論を大きく扱わない姿勢を見せた。一方で、この機会を利用して再び利下げを求める主張を展開している。トランプ氏はパウエル議長との間に緊張関係はないと主張し、プロジェクトに関する問題はFRBトップを解任するには恐らく十分な理由にはならないとの見解を示した。
トランプ氏が記者団に対し、改修費用が31億ドル(約4560億円)に膨れ上がったと述べると、パウエル氏は首を振って否定。トランプ氏が新たな見積もりの詳細を記したとする紙を渡そうとしたが、パウエル氏はその額には完成済みの建物も含まれていると反論した。
トランプ氏は金融政策に言及し、「金利を下げてほしいと思っている。それ以上何を言える」とコメント。また「個人攻撃をしたいわけではない」とした上で、「ただ早く完成してほしいだけだ」と語った。トランプ氏はその後、自身のSNSに投稿し、パウエル議長らの同行の下、FRB本部改修現場を視察したのは「大いなる栄誉」だとした上で、「金利を引き下げよ!」と改めて締めくくった。
【ECB(欧州中央銀行)、8会合ぶり利下げ見送り】
ECB(欧州中央銀行)は24日、8会合ぶりに政策金利を据え置いた。EU(欧州連合)とトランプ米政権の関税交渉が続き、不確実性が根強い中、様子見姿勢を取った。
ECBは次の一手について手がかりは示さなかったものの、ラガルドECB総裁が域内の経済情勢に明るい見方を示したことで、追加利下げ観測は後退した。ただし、金利据え置きは市場の予想通り。ECBは過去1年で行った8回の利下げで、中銀預金金利を4%から2%に引き下げている。
ECBは声明で「特に貿易摩擦のため環境は依然として極めて不透明だ」とし、「インフレ見通しと関連するリスク評価に基づき、会合ごとに決定する」とした。物価については「入手した情報はインフレ見通しに関する理事会の前回の評価とほぼ一致している」とし、「域内の物価上昇圧力は引き続き緩和しており、賃金の伸びは緩やかになっている」との見方を示した。
EUが米国と進めている貿易交渉を巡っては、米国がEUに対する関税率15%に設定することで合意し、米国が今月に入りEUに通達していた30%の関税は回避できる可能性があることが外交筋の話で示された。しかし、米政権内からは、こうした見方は推測にすぎないとしているが、交渉が最終段階に入っているとみられるタイミングでECBは金利据え置きを決定したことになる。
ラカルド総裁は理事会後の記者会見で、ECBは「様子見」モードにあるとし、「われわれの予測では中期的にインフレ率が目標水準で安定することが示されており、良い状況にある」と語った。さらに「米国との交渉の行方を注視している」とし、「貿易を巡る不確実性が早期に解決されれば、対処しなければならない不確実性は軽減する」と述べた。足元の経済状況については「良好な状態」で、成長は予想と一致もしくは「やや上回っている」という認識を示した。
金融市場が見込む秋の利下げ予想は80%に低下。数日前までは利下げの可能性を完全に織り込んでいた。市場は、もはや9月理事会での1.75%への利下げは見込んでいないようだ。場合によっては、年内および2026年は2%での据え置きを予想しているのかもしれない。