2025年08月11日
【Weekly No.496】昨年夏の暴落から1年、円高リスクに日本株は耐性
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- 【昨年夏の暴落から1年、円高リスクに日本株は耐性】
- 【赤沢再生相、米が自動車関税引き下げで大統領令へ-15%関税の修正も】
- 【本当にトランプ氏は貿易戦争の「勝利者」?】
- 【サービス業は事実上停滞、雇用はまた縮小圏-ISM非製造業指数】
- 【米新規失業保険申請22.6万件、1カ月ぶり高水準 継続受給件数も増加】
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Weekly 8月11日
【昨年夏の暴落から1年、円高リスクに日本株は耐性】
1年前、外国為替市場での急激な円高進行が東京からNYに至る株価急落の連鎖を招き、投資家の心胆を寒からしめた。その1年前と比べると、日本の株式・金融市場は安定を取り戻している。
この1年で日本株は2度の急落を経験した。1度目は1年前の昨年8月で、日本銀行の予想外の利上げや米国経済統計の悪化をきっかけにTOPIXは8月5日の取引で12%安と史上2位の下落率を記録。2度目はトランプ米大統領が追加関税政策の詳細を明かした今年4月だ。いずれも円相場の急伸と重なり、為替市場では低金利の円を売り、高金利のドルを買う「キャリートレード」の巻き戻しが加速した。
最初の急落から1年が経過したTOPIX(昨年8月5日は2227ポイント)は、7月24日に2986ポイントを付け、8月7日2987ポイントと2週間ぶりに史上最高値を更新。8日には関税をめぐる懸念が和らいだ(後述)ことで3000ポイントを超え3024ポイントで引けた。為替市場では以前よりもキャリートレードの影響が薄れ、日銀の利上げの道筋が見通しやすくなるなど為替や金利に対する耐性が強まっているからだ。企業のガバナンス(統治)や資本効率改革も継続し、日米関税交渉の決着も投資家の安心感につながっている。ただ、足元の株価指標は短期的に割高になっている。例えば、25日騰落レシオは直近3日間140超えとなっており、週明けは調整が入ると思われる。
相場の短期過熱を示す幾つかのテクニカル指標は昨年8月の急落前と類似し、1日に発表された米雇用統計が市場予想よりも悪く、パニックの再来が懸念されたが、現時点では円や日本株の変動率は1年前と比べはるかに小さい。今の相場環境は昨年よりもかなり安定し、株式市場がさらに上昇する余地があるとみる海外投資家が多い。
グローバル投資家が運用成績を計るベンチマークとしているMSCIワールド指数で、日本のウエートは6月末時点で5.5%と米国の63%に次ぐ2位だ。日本株の上昇基調が続き、時価総額で見た相対的な価値が高まれば、米国や欧州などから投資資金がシフトする可能性がある。
また、別の見方として、日銀は過去の教訓を学び市場とのコミュニケーションを改善したことが為替や金利の落ち着きにつながっていると分析する。
昨年7月に政策金利を15ベーシスポイント(bp、0.15%)引き上げた際、投資家は唐突だと受け止め、キャリートレードの巻き戻しが円急騰を招いた。しかし、日銀による対話姿勢の変化で市場は利上げが進んでも円と他通貨の絶対的金利差があまり変わらないことを認識し、円のキャリートレード解消(急速な円高になる)リスクは低下した。
日銀が今年1月に25bpの追加利上げを行った際、その10日前に氷見野副総裁が利上げの可能性を示唆し、植田総裁も後押しするなど事前に市場での織り込みが進んだため、実際の利上げを受けて日本株は銀行株中心に上昇した。昨年8月の市場混乱にもかかわらず、今年1月に再び利上げを決断したことで利上げ路線の継続が明確になり、投資家は先のシナリオを描きやすくなったのだろう。
【赤沢再生相、米が自動車関税引き下げで大統領令へ-15%関税の修正も】
訪米中の赤沢亮正経済再生担当相は現地時間7日、米閣僚と会談し、対日自動車関税を引き下げる大統領令を発令することを確認した。併せて日本製品に15%の関税を上乗せした大統領令も修正するという。
赤沢氏はワシントンで記者団に語った。日米間の合意に沿っていない内容の大統領令が発令され、適用が開始されたことは「極めて遺憾」と発言。米閣僚も今回の米側の手続きは遺憾であったとの認識を表明したという。
その上で、米側は「適時に大統領令を修正する措置をとる」と説明。同時に自動車・自動車部品への関税率を15%に引き下げる大統領令を出すことも確認した。具体的な時期については米側が判断するとしながらも、「半年、1年ということは当然ありえない」とし、常識的な範囲で対応がなされるとの認識を示した。
一律関税がかかるのは自動車や鉄鋼などの分野別関税の対象外の品目。米側は今月7日以降徴収した関税のうち超過分はさかのぼって払い戻すとの説明もあったという。赤沢氏は、引き続き米側に対して一律関税に関する大統領令の修正と、自動車関税の発令を「あらゆるチャンネルを通じて強く申し入れていく」と述べた。
8日の東京株式市場では電機や自動車など輸出関連株が上昇した。外国為替市場の円は1ドル=147円台前半で推移。赤沢再生相の発言の円相場への影響は限定的となっている。
【本当にトランプ氏は貿易戦争の「勝利者」?】
トランプ米大統領は一見、貿易戦争に勝利しつつあるかのように見える。主要な貿易相手国を意のままに従わせ、ほぼ全ての輸入品に2桁台の関税率を課して米国の貿易赤字を縮小し、毎月数百億ドルもの貴重な現金を国庫に稼ぎ入れるといったシナリオが描ける。
トランプ氏の各国に対する「相互関税」は7日に発動された。しかし重要な課題が残っている。貿易相手国が投資や物品調達の約束を果たすのか、関税がどの程度、国内インフレを押し上げ、需要や成長を阻害するのか、そして多くの場当たり的な関税措置を裁判所が認めるかどうかなどだ。
米国の実効関税率はトランプ氏の第2次政権発足時に約2.5%だったが、その後は推計17-19%に跳ね上がった。7日の新税率発効によって実効関税率は20%に近づき、過去100年で最高になると見込まれている。
貿易相手国の多くが報復関税を発動していないため、報復合戦が勃発して世界経済への打撃が深刻化する事態は避けられている。5日発表の6月の米貿易収支統計は赤字が前月比16%縮小し、対中貿易赤字は21年以上ぶりの低水準となった。
米国の消費は予想以上の底堅さを示しているが、最近の一部統計からトランプ関税が雇用や成長、インフレに影響を及ぼし始めていることが読み取れる。トランプ氏は世界中の国・地域に対して関税を引き上げつつ、報復的な貿易戦争を回避しており、それは本人の想定以上に容易だった。しかし、より重要なのはこうした政策が米経済にどのような影響を及ぼすかになる。
トランプ氏が諸外国から多くの譲歩を引き出しているのは明白だが、経済的な観点から言えば貿易戦争に勝利してはいないとも見える。トランプ氏はこれまでにEU(欧州連合)、日本、英国、韓国、ベトナム、インドネシア、パキスタン、フィリピンと計8件の枠組み合意を結び、これらの国・地域の輸出品に対して10-20%の関税を課している。これは政権が4月にぶち上げた「90日で90件の合意」に遠く及ばないが、米国の貿易全体の約40%を占める。現在30%の関税を課し、12日が交渉期限となっている中国を加えれば、米国の貿易全体の比率は54%近くに達する。
合意はさて置き、トランプ氏の関税政策は多くが二転三転してきた。6日には、ロシアからの原油輸入を理由にインド向けの新関税率を25%から50%へと大幅に引き上げ、インドへの圧力を強めた。ブラジルも50%の税率を適用される見込みだが、これはトランプ氏が盟友であるブラジルのボルソナロ前大統領の起訴に不満を持っているためだ。また、以前トランプ氏から称賛されていたスイスはトランプ氏との交渉が不調で、39%の関税に直面している。
また、日本の5500億ドル、EUの6000億ドルといった大規模な対米投資合意について、実行のための具体的なメカニズムが欠けているとも指摘されている。
トランプ氏が先月スコットランドを訪問した際に行われたサプライズ会談で、ほぼ見返り無しに15%の関税に合意したフォンデアライエン欧州委員長は批判を受けた。互いに関税をゼロとすることを求めていたEU域内のワイン生産者や農家は落胆。フランス全国酪農業連盟(FNIL)の会長は、15%は以前にちらつかされていた30%よりはましだが、それでも酪農家の損失は数百万ユーロに上ると述べた。
一方、欧州の専門家によると、フォンデアライエン氏の動きによって関税のさらなる引き上げが回避され、トランプ氏との緊張が和らぎ、半導体、医薬品、自動車への潜在的な追加関税も防げたのは事実だ。またフォンデアライエン氏は、米国の戦略物資7500億ドル相当の購入と6000億ドル超の投資という象徴的な意味合いの強い約束を行った。約束の履行はEU加盟国や企業に委ねられ、欧州委が強制することはできないと専門家は指摘している。
米政府関係者は、EUや日本、その他の国が約束を守っていないとトランプ氏が判断すれば、より高い関税を再度課すことが可能だと主張している。しかし約束の履行状況をどう見極めるのかは不透明だ。過去を振り返っても、中国はトランプ第1次政権下の「第1段階」米中貿易合意で受け入れた控えめな調達義務すら実行せず、その後のバイデン政権が中国の責任を追及するのは難しかった。
また、トランプ氏が一方的に導入した関税の根拠そのものも訴訟に直面している。トランプ氏の法務チームは、敵国への制裁や資産凍結のために使われてきた1977年の国際緊急経済権限法(IEEPA)の解釈を変更し、今回の関税措置を正当化するのに利用したことを巡り、控訴審の口頭弁論で厳しい追及を受けた。判決はいつ出てもおかしくなく、最終的には最高裁の判断を待つことになりそうだ。
【サービス業は事実上停滞、雇用はまた縮小圏-ISM非製造業指数】
8月5日発表の7月のISM米非製造業総合景況指数は50.1、6月のそれは50.8、予想は51.2だった。活動が実質的に停滞している。需要は振るわず、コストが上昇するなかで、企業は人員を削減した。雇用の指数は46.4に低下し、この5カ月で4回目の縮小圏となった。一方、仕入れ価格指数は2022年10月以来の高水準となった。
サービスセクターが関税引き上げの悪影響と闘う一方、消費者は支出に慎重になり、トランプ大統領の政策が不確実性をもたらしている現状が浮き彫りになった。
ISMの説明では、成長減速が引き続き示された。季節や天候に関連した要素も事業に悪影響を与えたとの回答があったと発表文で述べた。調査対象企業の間で最も話題になっているのは、やはり関税による影響だったようだ。
7月は輸送や卸売り、金融など11業種で業況が拡大した一方、宿泊や飲食など7業種で業況が縮小した。今回の指標は景気に警戒のシグナルを送る他の統計と整合した。先々週発表された7月の雇用統計では、従来の想定より著しい弱い労働市場が浮き彫りになった。インフレ調整後の個人消費支出は微増にとどまった。
【米新規失業保険申請22.6万件、1カ月ぶり高水準 継続受給件数も増加】
米労働省が7日に発表した週間の新規失業保険申請件数は7000件増加し、22.6万件となった。市場予想は22.1万件を超えて増加し、1カ月ぶりの高水準となった。
雇用創出が弱まり、失業者が新たな職を得るのに時間がかかっているものの、企業は大規模な一時解雇(レイオフ)には踏み切っておらず、アナリストの間からは、過去に雇用市場の悪化を示唆したような急激な減速は見られないとの声が聞かれた。
7月26日までの1週間の継続受給件数は3.8万増の197.4万件と、2021年11月以来の高水準に達した。増加幅も5月下旬以来最大。
新規失業保険申請件数と継続受給件数がともに増加したものの、ほぼ予想のレンジ内で推移しており、ここ数カ月の新規失業保険申請件数および継続受給件数の横ばい傾向は、レイオフの動きが鈍っていることを示唆している。また、一方では高水準の継続受給件数は、失業者が職を見つけるのが困難になっていることを示唆しているようだ。先に公表された米雇用統計で7月の雇用ペースが鈍化し、5・6月分の雇用者数が大幅下方修正されたことを踏まえると、4月以降の失業保険申請数の急増は理にかなっている。